お金の話というと、多くの人は「儲け方」や「節約術」を思い浮かべる。
だが、本当に人生を左右するのは、もっと地味で、誰もあまり語りたがらない部分にある。
ある男性の話をしよう。
彼は若い頃、そこそこ稼ぎがあり、同年代よりも少し余裕のある生活をしていた。
給料日には外食をして、欲しい物があれば、我慢せずに買った。
貯金はほとんどしなかったが、「まだ若いし、なんとかなる」と思っていたのだ。
40代になり、仕事は忙しくなったが収入は伸び悩んだ。
家庭を持ち、教育費や住宅ローンがのしかかる。
それでも彼は、「今を楽しむこと」をやめなかった。
老後の話をされると、「そんな先のことを考えても仕方ない」と笑っていた。
ところが、50代後半で状況が変わる。
会社の業績悪化、役職定年、収入減少。
体力も落ち、思うように働けなくなった。
気がつけば、貯金はほとんどない。
年金の見込み額を初めて真剣に確認したとき、彼は言葉を失った。
「こんなに少ないのか…」
そこから彼は、初めてお金と向き合うことになる。
しかし、お金は、「困ってから学ぶ」では、あまりにも遅すぎたのだ。
ここで大切なのは、この男性が特別に浪費家だったわけではない、という点だ。
彼はごく普通の感覚で、周囲と同じように生活していただけだった。
多くの人が陥る落とし穴は、「贅沢をしている自覚がないまま、未来を迎える」ことにある。
お金の本質は、選択肢を増やす力だ。
貯金や資産があると、仕事を選べる。
ツラい仕事を無理に続けず、体を休ませることもできる。
誰かに頼らず、自分で決められる。
一方で、お金がないと、選択肢は一気に奪われる。
お金のために、「嫌でも働く」、「我慢する」という状況に追い込まれる。
重要なのは、「いくら稼ぐか」ではない。
「いくら残すか」、「どれだけ時間を味方につけるか」だ。
毎月1万円の差は、小さく見える。
しかし、20年、30年と積み重なれば、人生を左右する差になる。
しかも、お金には「時間と組むと増えやすい」という性質がある。
若いうちに少額でも積み立てを始めた人と、50代から慌てて始めた人では、同じ金額を入れても結果はまったく違う。
また、お金の不安は、心を静かにむしばむ。
将来への不安は、人を臆病にし、挑戦を避けさせ、時には人間関係さえ歪ませる。
逆に、お金という最低限の安心があるだけで、人は驚くほど前向きになれる。
お金は幸せそのものではない。
だが、お金がないことで不幸になることは、確かにある。
だからこそ、お金の話は「恥ずかしいもの」でも「卑しいもの」でもなく、人生設計の話として大切に扱うべきなのだ。
家族と話す。
自分で通帳の数字を見る。
将来を想像する。
それだけで、未来は少しずつ変わっていく。
最後に一つだけ、大切なことを言おう。
お金に向き合うのに、遅すぎることはない。
だが、先送りするほど選択肢は減る。
今日、ほんの少しでもお金のことを考えたあなたは、昨日の自分より確実に前に進んでいる。
その一歩が、10年後、20年後の自分を救うことになる。
お金は、人生のすべてではない。
しかし、人生を守る土台ではある。
その土台を、今日から少しずつ、静かに整えていこう。
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